ピアノで脱力する練習方法の総まとめ

昔ピアノを習っていたときに、どんなに一生懸命練習しても弾けるようにならないパッセージがあったとき、その原因の一つは「脱力ができていない」というものでした。難しい箇所で力が入ると、指や手に力が入って無理して弾こうとするためかえって全然弾けないという現象です。「もっと力を抜いて楽に。脱力して。」と先生に口で言われても、じゃあ一体どうすれば脱力できるの?という疑問はなかなか解決しませんでした。下手に力を抜こうとすると、こんどはふにゃふにゃの音になってしまいます。

 

ピアノでの脱力に関する科学研究

力んで弾いた音は硬く聴こえる。それは、なぜか。打鍵を力んで行った時と、脱力して行った時とでは音色が異なることがストックホルム王立工科大学アンダース・アスケンフェルトエリック・ヤンソンの実験で立証され、打鍵直前の速度が一定でも、「ハンマーの動きはタッチにより複雑に変化すること」が見出された。力を入れてスタッカートを打鍵した場合はハンマーの速度は一度早くなり、そのあと減衰し、加速度も一気に上がりそのあと直ぐに減衰する。リラックスして行った場合は、ハンマーの速度はほゞ一定な速さを保ち、加速度も一度上がるが、その後に減衰してはまた増加し、ぶれながら打鍵へと向かうことが判る。要するにレバーが「たわむ」ことが考えられる。(「ピアノ演奏への考察」 : 重量奏法から感情尺度によるラベリングまで 2015-12-01 琉球大学教育学部音楽科論集(4): 111-127

  1. 脱力に着目したピアノ打鍵の支援に関する研究 修士論文  NAIST-IS-MT0451075 2006年2月2日 奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科情報生命科学専攻

 

ピアノ演奏における脱力とは

ピアノを弾く際の脱力とは、音を出すために必要な筋肉だけがに必要な時だけ収縮しており、それ以外の筋肉は緊張が解かれている状態と言えるでしょう。

The Russian Method, As I Learned It, by Dr. James McKeever

 

ピアノを弾く際に脱力することの重要性

「手首は音楽の中の呼吸を表している」、これはショパンも言っている言葉であるが、手首がかたく止まっていれば、硬直した音楽にしかならない。(横山幸雄ピアノQ&A 136 から  Q39 音をしっかり出そうと思うと、手首がかたくなってしまい、力が入ってしまいます。)

 

自分の過去の経験ですが、16分音符が連続する速いパッセージがどうしても弾けるようにならないとき、ナイーブな考えでメトロノームの速さを一つずつ上げていけば必ず速く弾けるようになるのではないかと思って練習していたことがありました。しかし、このやり方だと必ずどこかで頭打ちになってしまい、それ以上はどう頑張ってもメトロノームについていけなくなります。そこで発想をガラリと変えて、非常にゆっくりと弾いてみて、一音ごとに指をはっきりと動かして、打鍵した瞬間にその指の力が抜けていることを確認しながら弾くという練習をしてみたことがあります。そうすると、あら不思議、いきなりさっき弾けなかった速度にメトロノームを設定して弾いてみても弾けたりするのです。ピアノって、脱力が大事なんだと思ったものです。

脱力は脱力は難しい箇所を弾くために必要なことですが、良い音を出すためにも大事ですし、さらには、手を痛めないためにも重要なことだと思います。がちがちに手を固めて長時間練習していたら指が痛くなったり、肩が痛くなったりして、いつか体を痛めてピアノが弾けなくなります。

 

今や、多くのピアノの先生やピアニストがピアノ演奏のテクニックを動画やブログで解説していますので、なるほどと思ったものを纏めておきたいと思います(順不同。適宜、入れ替え等あり)。

自分が実は脱力できていないことに気付く方法・脱力できた状態を知る方法

脱力へのステップ! 森本麻衣 2020/04/15 ピアニスト 森本麻衣

 

重いペットボトルを持って、腕の力を完全に抜いた状態で腕をユラユラさせてみて下さい。ユ~ラユ~ラ~ユ~ラユ~ラこの時、ペットボトルを落とした方。残念ながら指の力も抜けています。これだとピアノが弾けない指ですガーンそれに対して、ペットボトルを掴んでいた方。この指がまさに、脱力した状態でピアノを弾く指の支えです(脱力奏法の一番分かりやすい例 2018-09-04 06:28:13 藤沢・辻堂 ピアノ・英語リトミック教室 藤沢ピアノ音楽教室)

脱力するための練習法

ピアノを脱力できた状態で弾くことは大変難しいと思うのですが、どんなことをすれば脱力できた状態を得られるのでしょうか。YOUTUBEをあれこれ見ていたら面白いと思える練習法が紹介されていたので、紹介。

Strengthen and Relax Your Hand Using This Simple Technique Exercise – Josh Wright Piano TV

Keeping your hand loose and flexible at the piano 2018/02/27 Steven Masi

手首の脱力のための練習方法

脱力は、演奏に必要以外の力が抜けている状態です。力が入ってしまうのは指や手だけでなく、手首の場合も。手首の力を抜く方法について。

How To Relax Wrist – Free Piano Lesson 4 – Musiah 2019/03/20 Musiah

手首の脱力のために有効な指(手)の体操(エクササイズ)

【ピアノレッスン】ピアニストが教える 柔らかい手首の作り方 2019/06/21 Piano Space

脱力するために心がけるべきこと

【魔法のテクニック】脱力のコツ! 森本麻衣 2020/04/22 ピアニスト 森本麻衣

オクターブを弾くための脱力エクササイズ

オクターブで動くときに手や腕に力が入っていると、最初のいくつかの音は引けても続けて引けなくなります。下の動画では、ボールペンを使った誰にでも簡単にできる(やってみると案外難しい)方法を教えてくれます。

オクターブの脱力法! 森本麻衣 2020/03/24 ピアニスト 森本麻衣
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重力奏法

腕の重さを使って弾く「重力奏法」は、当然ですが脱力していないとできません。力が入っているとスムーズに腕を落下させられないので。『ピアニストの脳を科学する』という本の中で紹介されていた実験だそうですが、プロと初心者に一回だけ打鍵させてピアノの音を鳴らしてもらったときに筋電図を測ったそうです。すると、打鍵のときに初心者は筋肉を収縮させて音を出していたのに対して、プロのピアニストは筋肉の収縮を利用するのでなく重力による自然落下を利用して音を出していることがわかったそう。

  1. 脱力の話 〜脱力が力を生む?〜 (2020年1月10日 Baseball Sports Clinic)音楽の演奏を専門的に研究されている古谷晋一先生は、著書「ピアニストの脳を科学する 超絶技巧のメカニズム(春秋社)」の中でプロのピアニストの脱力について述べています。

腕の落下を利用した奏法の最たるものは、ルビンシュタインの演奏法ではないかと自分は思います。

Rubinstein – Beethoven sonata Op.57 ‘Appassionata’ 3rd movement.

ピアノで脱力できるようになる本

脱力するためのヒントがわかる本も出ています。

 

 

脱力できていることが非常によくわかるピアニストの演奏

脱力した体の使い方というものを見事に見せてくれるピアニストとして、自分はYuja Wang(ユジャ・ワン)が最高なのではないかと思います。体の動きを見ていて、「本来ピアノを弾くために作られたわけではない人間の体を使ってピアノを弾いている」ということを感じさせないくらいに、実に自然に音が出てきます。

Yuja Wang Piano Master Class Debut – Ilan Kurtser

 

参考

  1. ピアノ脱力の練習法 深谷直仁のピアノ上達練習法
  2. Piano Grandma(ピアノばあちゃん)チャンネル
  3. ピアノ脱力法メソッド  ピアノリトミック教室 大阪府門真市

  4. ピアノ脱力法メソッド教材動画 2017年4月発売 導入教材「にじのねいろ」1巻2巻 動画一覧

  5. 岳本恭治のピアノ・脱力奏法講座-音楽之友社-e-playing(有料動画教材)
  6. 【ピアノ脱力】脱力演奏法はウソ?どう力を使うかが問題!(ピアノ部)
  7. ピアノレッスンレポート「脱力って何??」 島村楽器三宮オーパ店シマブロ