誰にでもできてしかも科学的にも面白いのが、ダンゴムシを観察してその行動を調べることです。ダンゴ虫は障害物に行き当たると、右か左に向きを変えますが、次にまた障害物に出会うと、さっきとは反対側に向きを変える習性があります。つまり、左、右、左、右と規則的に向きを変えるのです。テレビでも取り上げられて結構有名な話ではあります。
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ダンゴムシは壁にぶつかり右に曲がると次は左に曲がる習性がある。トリビアの泉(動画削除済み)
(明日使えるムダ知識をあなたに No.340 神奈川県 ペンネーム ヨシゴイさん(13)からのトリビア)
どうしてそうなるのかについては動物行動学者も研究しているくらいに奥が深いのですが、小学生や中学生でもひょっとしたら、専門家に負けない大発見ができてしまうかもしれません。ダンゴムシはどこにでもいるので、日本全国誰にでも実験ができます。
ダンゴムシの行動パターンはYOUTUBEでも動画がありますので参考になります。
だんごむしのアルゴリズム (MEMEsCh10)
ダンゴムシ迷路で「交替性転向反応」を確かめてみた。 (おりぐち だい)(動画削除済)
さて何を研究課題にするかということですが。左右交互にターンするといっても、100%そうなのかというと、上の動画でみたように必ずしもそうではありません。ですから、
(1)同じ個体で何回中何回くらい左右交互に向きを変えるのか?
(2)いくつかの個体で試したときに、その割合はどうなのか?
ということがまず疑問として浮かびます。迷路の設計をどうするかは、データを得るためには非常に重要です。何を調べたいのかを最初に決めてから、それを調べられるような迷路を考えないといけません。ダンゴ虫の行動実験というと、たくさんの人がやっていてありふれているように思われるかもしれませんが、自分で人とは違う創意工夫をする余地は無限にあるので、本当に世界で初めての新しいことが見つかるかもしれません。
左右交互ということが実験で示せれば、次に浮かぶ当然の疑問は、どうして?ということです。
「左右交互に曲がったほうが同じ方向に曲がり続けるよりも、天敵から逃れる上でより遠くへ逃げることができるから。」というのがよく言われることですが、これは合目的的な説明ではありますが、どういうカラクリで?という疑問にはまったく答えられていません。夏休みの自由研究をサイエンスのレベルに上げるためには、やはりメカニズムは何なの?という疑問に少しでも答えられるような実験をしたいものです。
(3)一度ターンしたときの向きを覚えているのでしょうか?だとしたら、2回目のターンまでの直線距離を長くしてみたら、その間に忘れてしまう可能性が増えたりするのでしょうか?
(4)ターンするときに必ず触覚が壁に触っているように見えますが、ターンを決めるときに触覚はどのような役割を担っているのでしょうか?もし片方の触覚を切ってやると、ターンの向きが決まる頻度はどう変わるでしょうか?
(5)触覚が大事だとしたら、たとえば直線を走行中に片方の触覚を針で触ってやったら、次のターンはどうなるでしょうか?
自分であれこれ考えてみるのは楽しいですが、一体今までに何がわかっているのと文献を検索してみて、まだわかっていないことを調べてみるのもまた科学的な態度といえます。ダンゴムシというキーワードでグーグル検索してみると、いくつかの参考になるサイトや文献がヒットします。
何をたよりに曲がる方向を決めているのか、つまりこの行動の仕組みを知るためにさまざまな研究がなされた結果、一つの考え方として、左右両側についている足の活動量を均等にする、例えば右に曲がる場合、左側の足は右側の足より外側を歩くことになるためにたくさん動かさねばいけないことから、次に曲がるときは、反対側の足をたくさん動かすようにバランスをとる、その結果、曲がり角に来るたびに左右交互に曲がることになる、という考えがあります。(【ダンゴムシはジグザグが好き!】むしコラ むしむしコラム・おーどーこん ー近くて不思議な虫の世界ー 2007年05月10日掲載 著者: 小野知洋 (金城学院大学))
本研究は,日本農芸化学会2014 年度(平成26 年度)大会(開催地:明治大学生田キャンパス)「ジュニア農芸化学会2014」において発表されたものである. .. 交替性転向を説明する仮説として走触性仮説(図2)とBALM( Bilaterally Asymmetrical Leg Movements)仮説(左右の脚の作業量平均化)(図3)の2 つの仮説が知られているが,いずれがより妥当な仮説であるか,調べることにした. オカダンゴムシの交替性転向の仕組みを探る 福島県立磐城高等学校 草野ゆうか,新妻裕翼(顧問:小平裕子) PDF
ちなみに、この左右交互に向きを変える行動のことは、「交替性転向反応」(turn alternation)といういかめしい名前がつけられています。
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他人の研究内容を知ると、いろいろな疑問がさらに湧いてきます。仮にすでに研究されている内容であっても、自分でも追試してみてその結果が再現されるかを確認してみることはとても大切です。もしも再現されなければ、何か実験条件が異なっていたのかもしれませんし、その実験条件の違いに気づくことは新たな発見につながる可能性があります。自分で様々な実験条件を考えて、メカニズムに迫るのも楽しいものです。
(6)ダンゴムシが歩くときに示す交替性転向反応は、食べものを探しているときと、敵から逃げようとしているときとで、何か違いはあるのだろうか?
文献検索をするには、キーワードが必要です。英語がわかれば、検索できる文献の数が飛躍的に増えます。ダンゴムシの正式名称(学名)はArmadillidium vulgare(オカダンゴムシ)。英語で生命科学の論文を調べる場合には、PubMedという有名なサイトがあります。ここの検索窓にArmadillidium vulgare turn と入れてみるといくつかの文献がヒットしました。もちろグーグルやグーグルスカラーなどの検索サイトも使えます。
論文の参考文献(References)を見ることにより、その論文より以前にどのような研究報告がなされていたかを知ることができます。
本研究では,オカダンゴムシを用いて様々な歩行路の設定を用いて交替性転向反応の機構を探るとともに,内的な意志決定機構に影響を与えると思われる条件設定が,その後の転向行動等へどのように影響するのかを見ることから,交替性転向反応の適応的な意義について検討した. Turn Alternation of the Pill Bug Armadillidium vulgare and Its Adaptive Significance. Tomohiro Ono, Yurika Takagi. Japanese Journal of Applied Entomology and Zoology Vol. 50 (2006) No. 4 P 325-330 Full Text PDF閲覧可能 (日本語の論文)
Decision-making and turn alternation in pill bugs (Armadillidium vulgare). Tohru Moriyama. International Journal of Comparative Psychology, Vol.12, No.3, 1999 (全文閲覧可能)
Do Predator Cues Influence Turn Alternation Behavior in Terrestrial Isopods Porcellio laevis Latreille and Armadillidium vulgare Latreille? Kevin G. Hegarty andScott L. Kight (全文閲覧可能)
Self-corrective behavior for turn alternation in pill bugs (Armadillidium vulgare). Moriyama T, Migita M, Mitsuishi M.Behav Processes. 2016 Jan;122:98-103. doi: 10.1016/j.beproc.2015.11.016. Epub 2015 Dec 1.PMID:26621257(要旨は無料)
Turn alternation in the pill bug (Armadillidium vulgare). Kupfermann I. Anim Behav. 1966 Jan;14(1):68-72. PMID:5918251(要旨)
交替性転向反応(turn alternation)を示すのはオカダンゴムシ(Armadillidium vulgare)だけではありません。他の生物種でこのメカニズムが調べられている可能性もありますので、キーワード検索を”turn alternation”で試してみることも必要です。ワラジムシ(Porcellio scaber)も研究材料として用いられていることがわかります。
Angles of free turn were observed in woodlice (Porcellio scaber) after they had been forced to turn left or right in runways. Alternation angles were increased by greater forced-turn angles and number of successive forced turns in one direction. Removal of one or both antennae had no effect on alternation. It was also repeatedly observed that the closer a woodlouse remained to the far wall while traveling along the exit alley of a runway, the greater was its angle of alternation. However, orientation toward this far wall bore no relation to alternation. When given three successive left or right forced turns followed by a fourth in the opposite direction, woodlice moved further away from the exit-alley far wall and repeated the last forced turn at the choice area. Along with results of the other experiments, this result in particular supported an explanation for woodlouse alternation based on bilaterally asymmetrical leg movements (BALM) arising from the negotiation of forced turns. Such asymmetry is seen as biasing an animal to turn in the opposite direction to a preceding forced turn. Mechanisms for turn alternation in woodlice (Porcellio scaber): The role of bilaterally asymmetrical leg movements. R. N. Hughes Animal Learning & Behavior September 1985, Volume 13, Issue 3, pp 253–260 Download PDF
It was shown that response alternation frequency in woodlice became higher with the number of prior forced turns in one direction, but was unaffected by varied distance between the start and a forced turn. However, the frequency became lower with increased distance between a forced turn and a choice point, and also with detention following a forced turn. Woodlice kept in a bright, warm environment prior to testing made greater numbers of successive alternation responses in a multiple T maze and showed faster running speeds. It was concluded from this that adverse stimulation increases alternation merely by causing more rapid movement between turns. One possible adaptive function of response alternation in woodlice may be to insure efficient, direct movement away from a noxious area. Turn alternation in woodlice (Porcellio scaber) R.N.Hughes Animal Behaviour Volume 15, Issues 2–3, April–July 1967, Pages 282-286 (本文は有料)
Investigating turn alternation behaviour of woodlice. Class practical